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DEAR カール・ニールセン
 〜デンマークに魅せられて〜 5 (「ショパン」 2001年3月号)

 
作曲家、そしてコンサート


魅力的な作曲家たち

デンマーク。
ライ麦パンとスモークサーモンと人魚姫の国。白鳥をシンボルにいただく国。国民のアイドル、マーグレーテ女王に独身のフレデリック皇太子、ヘレナ・クリステンセンにカレン・ブリクセン、サーン・キアケゴーにアクアにブクステフーデ、そして、お札にまでなった、あの──。

残念ながら、私はニールセンご本人に会うことはできなかったが、現在第一線で活躍するデンマーク人作曲家にはたびたび会う機会に恵まれた。中でも印象深いのはポール・ルーダース氏。現在デンマークにおいて、ペア・ノアゴーと並ぶ二大双璧とも言える作曲家である。出会いは留守電のメッセージだった。CD収録中の、彼の作品に対する感想とそのお礼が熱っぽく述べられていた。それだけでも充分うれしかったのに、留守がちな私に「一言お礼が言いたくて」と何度も電話してくれた、そちらのほうにも非常に感激した覚えがある。

その後お会いする機会にも恵まれ、1度聴いてもらえないかと尋ねると、「あのように弾いてくれるのなら何も言うことはない。コンサートを楽しみにしています」とのことだった。作曲は、電話も何もないコンテナの中で、午後1時か2時頃まで──私とは正反対の完璧朝型、<朝型>と<夜型>人間の違いについてで大いに盛り上がった。二大双璧の一であるにもかかわらず、とてもシャイで謙虚な紳士、という感じの方である。

もうひとり、印象深かったのがハンス・アブラハムセン氏。コンサート前に、1度彼の作品を聴いてもらったのが出会いだった。若年の頃から成功をおさめ、数々の名曲を生み出してきた彼だが、ある日突然作曲をストップ(一説によると<からっぽ>になってしまったのだという)。昨年末、ついに13年間のブランクを経て、待ちに待たれた<復活>の記事が新聞を騒がせた作曲家である。

私がお会いしたのは作曲をストップ中のことであった。ソフトな語り口に穏やかな物腰、私が1度通して弾くと、「とてもいいよ──じゃ、最初から」とそう言って、終わりなきレッスンが開始されたのだった。その理想の高さ、理想の音を追い求める情熱には、彼の、自分の作品への愛がひしひしと感じられ、私は薄っぺらな紙のように疲れきりながらも非常な感動を覚えた。えんえんと続いたその最後の最後、「──じゃ、もう1度最初から通したい?」と訊かれたときには、さすがに「もう充分です」と言わざるを得なかったが……。

ニールセンは、作品の解釈・演奏を、演奏家の自由にまかせるタイプの作曲家だった。私が出会った作曲家たちも、どちらかといえばこのタイプが多いようだ。舞台で演奏するのは<私たち>であるわけだし、演奏してくれるだけでありがたいと思うかもしれない。そう頭でわかっていても、もし、私が作曲家だったら──たぶん、心情的には間違いなく、A氏のタイプではなかろうか。
小雨降るオーデンセ川と、人懐っこいカモたち

小雨降るオーデンセ川と、人懐っこいカモたち。



数々のコンサート


さて。幸運にも在学中より、デンマーク内外で数々のコンサートの機会に恵まれた。それらはおおむね無事遂行されたのだが、そうでなかったものもある。最たるものは、コンサート開演30分前キャンセルというのがあった。演奏家の都合で、というのならあり得るかもしれないが、この場合、会場前の野外劇場でロック・コンサートがおこなわれることが当日発覚、とんだダブルブッキングだったのである。「うるさくて、これではとても無理」との連絡を受けたのが5時すぎ頃。私は、それがどうしたという感じであまり深刻に受け取らず、とりあえず、向こう側の主催者に時間をずらせないかどうかかけ合ってみるよう頼み、予定通りに会場入りしたのだった。

が、付近一帯に轟くものすごい音と、いくつもつり下げられた巨大スピーカーをまのあたりにしたとたん「これは無理だ」と悟った。会場がモダンなガラス張りの建物だったため、こちらの音が何も聞こえないのである。向こう側との調整もつかず、そのうちお客さんはどんどん来てしまうし、「とにかく今日は無理、では明日か、1週間後か、完全に中止か、決断を!」と目をつり上げた面々に迫られ、頭の中はぐるぐるぐるぐる、まさにハムレットの気分であった。1度は<完全中止>と決めた決断をまわりになだめすかされ、コンサートは1週間後、今度こそ無事におこなわれた(このときのプログラムはショパンのエチュードだった)。今でこそ笑い話だが、あのときは本当にくやし涙をのんだ。

デンマーク王室ゆかりの城、ドイツ・グリュックスボー城での1日2回、3日連続コンサートというのも忘れがたい。こちらは、ちょっと弾きすぎという感じだが、キャンセルよりはいいだろうか。

そして、今一番興味のあるのがアーティストと組んだプロジェクト・コンサート。コンサートとアート、それぞれの領域をおかさないものあり、つかず離れずのものあり、よりミックスされたものもある。中でも友人であるアーティスト、ローラと組んだものは印象深い。彼女は非常に多才な人で、これまでにも<紙で作ったランプ(オブジェ、のようなもの)><針金で作った絵(のようなもの)>等々、数々の作品を手がけてくれた。作風は常にポエティック、だが時にはキテレツな舞台装置をもこなし、写真もよし、グラフィックデザインもよしの万能型アーティストである。その創造力はとどまるところを知らず、彼女と組んだプロジェクトでは、私は非常にアーティスト魂を刺激される。

これとは別物のプロジェクトが現在進行中、2月下旬から3月にかけておこなわれる、題して<旅のコンサート>。これは「長い冬を吹き飛ばせ!」ということで、本当はそれらの国々に行けたらいいのだが、なかなかそうもいかず──気分だけでも南国を旅するのである。第1回はスペイン。<闘牛>をテーマに、ヘミングウェイのテキストと、ピアノと歌によるスペインもの。第2回は1920年代のパリへ。ピアノと歌と俳優による、キャバレー風<エリック・サティ・カフェ>。そして最後はイタリアへの<ファンタジー旅行>。イタロ・カルビーノのテキストとピアノと現代のカストラート、カウンターテナーが登場する。

この<旅のコンサート>、当初はそれぞれの国のレストランを休憩中に引き入れる予定が、諸々の事情でボツとなり、かわりにそれぞれの国のワインと前菜だけ、という少々シケたものになってしまった。──が、今からとても楽しみなコンサートである。

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